第157回
中国名窯探訪 「汝窯」
これまでのコラムでは、
ざっと流れを掴む程度に個別の窯について説明してきましたが、
一通り古代〜清時代までの解説を終えましたので、
今後はゆっくりと一つ一つ陶磁器の生産地と
その作品について語っていきたいと思います。
中国古陶磁器の世界で圧倒的に人気の高い焼き物があります。
それは宋時代の幻の名窯とされる「汝窯」の作品です。
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現存する希少な「汝窯」の作品 1 |
何故「汝窯」の人気が高いかと言えば、
一つにその作品には説明しようのない芸術性が存在する事、
もう一つは最近までその窯の所在地や
焼成法さえ分からなったという神秘性があるかと思います。
汝窯、汝窯と呼ばれる作品を正式に説明すれば、
12世紀北宋の時代、汝州一帯に存在していた焼き物の窯の一部で
特別に焼かれ皇帝の為に献上された青磁の作品の事です。
その貴重さを申し上げますと、
すでに南宋時代には
「最近では汝窯の作品は最も入手し難い」と論じている程です。
現在世界に残存する作品は全部で65点、
台湾故宮博物院に23、北京故宮博物院に18、
上海博物館に8、イギリスのデヴィット財団に7、
日本に2、その他個人所有が8となっています。
その65点のほとんどが清朝までの皇帝の収蔵品だった訳ですが、
それが分散して今のような形になったと推測されます。
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「汝窯」の作品 2 |
汝官窯の窯跡は、長い間謎とされ発見されませんでした。
しかし、1986年に河南省清涼寺村でその窯跡が偶然発見され、
それは陶磁器界に一大センセーショナルを巻き起こします。
昔から汝窯の作品はその釉薬に高価な
「瑪瑙(めのう)」を用いていたと伝承されていました。
その説を裏付けるように
清涼寺村の汝窯窯跡付近で瑪瑙鉱が発見されています。
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「汝窯」の作品 3 |
清涼寺村の汝窯跡の発掘において、
もう一つ大きな発見がなされました。
その付近においていわゆる汝窯青磁以外にも、
鈞窯風の濁青釉磁器や
磁州窯風の磁器なども焼かれていたことです。
つまり、汝窯においては色々な焼き物を生産し
商売として成立させた上で、
皇帝の命による高級な青磁を特別に焼いて献上していた
と推測されます。
南宋時代に記された書物よると
「汝官窯の不合格品は街中で売っても良い」
という記述があります。
その他の歴史的陶磁器資料から推察するに、
皇帝の官窯において合格品となるのは
何百何千何万と焼かれた膨大な数の焼き物の
ほんの一部だけでした。
その他の不合格品は全て打ち砕かれてきたと言われ、
その廃棄跡も発見されています。
つまり、汝窯の焼き物は、
何十万何百万と焼かれた作品のうち、
現代たった65個だけ残された
気の遠くなるような希少な焼きものなのです。
汝窯の優品はもはや売りに出されるという事はありませんが、
その金銭的な価値ははかり知れません。
多分最低何十億円という価格がつくのでしょう。
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私が所蔵する「汝窯」の本物の陶片
(ここ数年数多く出回っている汝窯陶片の殆どは偽物) |
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