第196回
私のお気に入りの一品
今回の私のお気に入りの一品は「元時代 耀州窯飴釉碗」です。
耀州窯とは
中国陝西省で唐時代〜明時代に
大量の陶磁器を焼いた民間窯ですが、
全盛を極めたのは北宋時代です。
北宋時代には、
劃花と呼ばれる片切り文様の装飾法が施された青磁で
名声を得ました。
耀州窯は皇帝直属の官窯ではありませんでしたが、
北宋時代の青磁の名品は当時でも大変貴重な焼き物として、
高価な品だったと推測されています。
そして現在でも、
世界の有名コレクションには必ず耀州窯青磁が存在します。
そんな耀州窯も最盛期だった北宋時代から金時代
そして元時代に入るとその作風は落ち、
一般に使用するような生活雑器を焼くようになります。
今回紹介する一品も、元時代に入り耀州窯で焼かれた
一般人が使う普通の黒いお碗です。
元時代に入ると
もはや陶磁器は権力者やお金持ちだけが使える高級品ではなく、
大量生産され一般人が買える価格になりました。
当時、その中心だったのが「磁州窯」という窯場です。
元時代に入ると、高価な青磁を焼いていた耀州窯も磁州窯を習い
一般雑器を焼き始めたという事です。
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元時代の耀州窯ではこのような雑器も焼かれた |
では私が何故、この何の変哲もない
黒飴色のお碗が気に入っているかと言えば、
はっきりとした「使用痕」が認められる事からです。
中国古陶磁器の多くは、
死者と共に新品を墳墓に納めたものが発掘されたり、
窯跡から出土したB級品などが多いので
案外「使用痕」がある品は少ないのです。
そういう意味で、当時の人の生活臭が漂うような
この黒いお碗はある意味貴重な焼き物なのです。
まだスポンジのない時代、
砂混じりの水と藁でゴシゴシと洗ったような
無数の擦り傷が今となれば古陶磁器の魅力となるのです。
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無数の傷が当時の人々の生活を感じさせる |
また、何とも言えない「黒飴色」の発色も気に入っています。
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何とも言えない黒飴色の発色
抹茶碗として、とても魅力的なお碗である |
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