第204回
私のお気に入りの一品
今回紹介するのは五代十国時代に華北にあった
邢州窯という窯場で焼かれた白磁碗です。
五代十国時代というのは、
国力的にも芸術的にも大変栄えた唐時代から
これまた大変栄えた宋時代に移行するまでの混乱期の呼び名です。
その名の通り、華北一帯を五つの国が治め、
華南・華中地帯の覇権を争って
十の小国が凌ぎを削っていた時代です。
そんな乱世ですから、もちろん優雅に
芸術にうつつを抜かしているような時代ではありません。
しかし、陶磁器的に言えば
中国古陶磁器の黄金時代と言われる
宋時代を築く原動力となったのは
五代十国時代に開発された技術なのです。
中国古陶磁器の世界において唐時代→五代十国時代→宋時代は、
まさにホップ・ステップ・ジャンプの時代なのです。
具体的に言えば、
その後の中国陶磁器史に大きな影響を与えた
二つの技術が五代十国時代に生まれました。
それは、硬質の白磁を焼く技術と
天青庵の名前の由来となった澄んだ青磁を焼く技術です。
今回、紹介する邢州窯は、
宋時代の白磁の名窯「定窯」誕生の原点となり、
定窯はその後大量生産に成功し
磁器の普及に大きな功績を残しました。
そういう意味で、今回のお気に入りの一品は
硬質白磁の原点中の原点と呼べる一品なのです。
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まだ高温焼成に耐えられなかったのか
少し形が歪んでいる。 |
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若干青みを帯びているのは、
薪による還元焼成の結果 |
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後の定窯のように伏せ焼きではなく
高台に砂がついている |
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