第210回
中国古陶磁器 よもや話
骨董の真贋を見分ける時に一番大切な事は
「ファーストインスピレーション」
だと以前に書いた覚えがあります。
そういう事を日本の古い骨董屋さんは
「腹に入る」といった表現を使います。
つまり、モノを見極める時には
最初に見た瞬間に感じた直感を大切にした方が良いという事です。
なぜ「ファーストインスピレーション」が大切かと言えば、
それには二つの理由があります。
一つは、うだうだと見ていると人は
必ず自分に都合の良い解釈を始めてしまうという理由。
つまり、長時間品物を観察していると
骨董を取り巻く色々な約束事だけを満たしているような品が
本物に見えてきてしまうのです。
精巧な偽物は大概、
骨董にあるべき約束事をしっかり守って作られています。
ですので、実戦で鍛えられていない学者タイプの収集家は
じっくりと選んだつもりで
そういう偽物ばかりを収集する結果となってしまう事が多いのです。
私の知り合いにも、骨董に対する知識は相当深いのですが、
収集品の殆ど全てが贋作という人がいます。
(もちろん、口に出して言えませんが・・)
なぜそうなってしまうかと言うと、
本物の骨董品だけが持つ霊性だとか品格だとか、
作者の思いだとかを見ようとする意識が全くなく、
形式的な部分にばかり目を向けてしまうからです。
やはり、本物の骨董品には嘘がありません。
骨董品はその時代に必要とされ、
自然な成り行きの中で作られたものですから
大袈裟さがありません。
実用品ならその様式美、
芸術品ならその当時の作者の感性などが必ず品物に出ます。
そういう部分を感じるのはやはり
「ファーストインスピレーション」なのです。
簡単に言うと幼稚園児が書いた絵には嘘がないですよね?
大人が真似してわざと下手に書いても、
それは直感ですぐに見破れます。
骨董でも同じような事が言えるのです。
では、初心者でも何でも
「ファーストインスピレーション」だけで良いかと言えば、
話は全く変わります。
やはり「ファーストインスピレーション」を引き出すには、
それなりの知識と経験の積み重ねが必要になります。
とにかく出来るだけ多くの情報を
脳に溜め込んでおく事が非常に大切です。
株と同じで失敗の数だけ知識が増え上達するのです。
昔の骨董の達人が「腹に入る、入らない」
という言葉だけで品物を判定するその裏では、
その人が長年の経験で溜め込んだ情報をもとに
脳コンピューターが瞬時に結論を出しているのです。
つまり、骨董を正しく見分ける為には
「幼稚園児の絵を見分けられる感性」と
「蓄積された知識を瞬時に組み立てる能力」が必要な訳です。
これが「ファーストインスピレーション」が大切だという
一つ目の理由です。
では、二つ目の理由は何かと言えば、
長く品物をジロジロ見ていたら骨董屋のおっさんが必ず
「それ良いモノですよ、これと同類のものが○○博物館に・・」
などといらぬ注釈を入れてくるからです。
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これは本物か?偽物か?
ファーストインスピレーションで答えなさい
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