第217回
私のお気に入りの一品
今回の「私のお気に入りの一品」は一見どこにでもありそうで、
実はあまりない品です。
瓢箪型の形が珍しいのではなく、
この青一色という色使いが珍しいのです。
 |
この作品のように酸化コバルトを用い
一面青色に発色させた焼き物はあまり多くない
|
中国では、唐時代のシルクロードから始まり
元時代には中央アジアを制覇した事により、
釉薬の呈色剤である
良質の「酸化コバルト」が入手しやすくなりました。
酸化コバルトはそのまま焼き物にかけて焼いても
どす黒い茶色にしか発色しませんが、
器にかけた上に更にガラス質の透明な釉薬をかけ
真空状態にして焼くと綺麗な青色に発色します。
元時代に発明されたと言われるこの焼成方法の事を
「釉裏青」と呼びます。
これは「表面の透明な釉薬の下に青色の発色がある」
という意味です。
また、酸化コバルトを溶かした顔料は粘り気が少なく、
筆にとって簡単に模様を描けた事からこの技法では
青色の文様を描く事が主流となりました。
それが中国陶磁器で一番有名な青花磁器です。
青花磁器は元時代に発明され(原型は唐時代まで遡る)
明時代に発展し、清時代に完成されました。
 |
両方とも「酸化コバルト」の青い発色
左が中国では一般的な青花磁器
右はべた塗りの青色磁器
|
そのように、
昔から酸化コバルトの青色を活用してきた中国陶磁器ですが、
この青色を塗り込めた「一面真っ青」な焼き物は
そんなに多くありません。
中国では古来より、青磁に関しては
命がけで「青色」を追い求めてきた歴史があるが故に、
簡単に真っ青な青色が作り出せる
酸化コバルトでの青色の焼き物には
あまり価値を見出せなかったのかも知れません。
明の嘉靖時代には、
酸化コバルトを使って青色一色に発色した焼き物の上に
「金彩」で文様を描いた磁器が焼かれ、
それは大変有名になっています。
しかし、それに関しても「金彩」に価値があるのであって
下地の青色の焼き物が評価さけれた訳ではありません。
私が思うに、誰でも簡単に
きれいな青色の発色が得られる酸化コバルトの青色を
べたーっと塗ったような焼き物は
中国人の審美眼に訴えなかったのでしょう。
でも、何の面白みもないシンプルな青色の発色に、
日本人である私は何とも言えない魅力を感じるのです。
 |
表面の透明釉には時代擦れが見られるが
釉薬の下にある青の発色がとても新鮮
|
|