第504回
赤塚は 滝と仏と せいろそば
わが思い出の町・成増の老舗喫茶店「不二越」で
自慢の成増キーマカレーを食べたことは
ついこの間、当コラムに書いた(第490回参照)。
昼食後、乗蓮寺の東京大仏に手を合わせたことも・・・。
実はそのあと、今にも枯れそうな不動の滝に立ち寄り、
水量の激減に世の無常をはかなんだりしながら
頭の中ではいろいろと思いをめぐらせていた。
せっかく東京の外れまで来たのだ、
このまま真っ直ぐ都心に舞い戻る手はないぞ、
どこか近隣でもう1軒、
行ける店があったならツブしておこう。
僻地(?)を訪れていながら
1軒に甘んじていては
いつまでたってもハカがゆかない。
コラムの読者で板橋在住のT中T子さんご推奨の
日本そば屋「ひびき庵」のことをここで思い出す。
確かすぐそばの区立美術館に隣接しているはずだった。
歩いていた街道沿いに難なく発見して即入店。
ちょうど午後1時を回ったところであった。
清潔な店内の真ん中にしつらえられた
大きな相席用のテーブルに案内される。
一応、品書きを拡げたものの、
「ひびき庵」を訪ねたら必ず注文しようと
心に決めていたものがあった。
二色せいろ(1050円)である。
その日の二色はせいろと変わりそばのけし切り。
北海道は音威子府産のそば粉を使用している。
せいろは細打ちのコシの強いもの。
けし切りはリングイネ状の平打ちで
こちらもコシはあるが、けしの香りは薄い。
そばつゆはかえしが力強く好きなタイプだ。
店構えが小ジャレていて
店内の様子がいい新興日本そば屋の間では
つゆから甘みをとことん排除するのが
一種の流行になっているがJ.C.はそれに与しない。
冷麦やそうめんならいざしらず、
江戸前のそばにはそれなりの甘さが必要だ。
薬味はさらしねぎ・大根おろし・ニセわさび。
毎度、口を酸っぱくして言い続けているが
粉わさ・ニセわさ・混ぜわさはないほうがよい。
せっかくのそばの香りを著しく損なうからだ。
自分が打つそばに愛着するそば職人ならば
本物以外のわさびを排し、
大根おろし一本に切り替えたらどうだろうか。
中には粉わさびを好む人もあるだろうから、
リクエストがあったら出せばよい。
本わさびが高価に過ぎるというのなら
有料にしてもらっても構わないと思う。
100円もいただけば、店側の損失にはなるまい。
さび抜きで二色せいろをおいしく食べ終え、
進路を北東に取って新高島平駅に向かう。
この駅のそばにはやはり日本そばの「もとはし」がある。
変わりそばのしそ切りが上々との評判だ。
次回の板橋行脚は
「もとはし」に狙いを定めることになろう。
【本日の店舗紹介】
「ひびき庵」
東京都板橋区赤塚5-34-33
03-6780-0001
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