第595回
今度はおでんの老舗に衰えが見えた
前々回の当コラムでは神田明神下の
うなぎの大看板「神田川本店」に
翳りが見えてきたことはお伝えした。
今回はところを本郷に移して老舗のおでん屋である。
明治20年創業の「呑喜」は東京最古のおでん屋さん。
最寄り駅は東京メトロ南北線の「東大前」。
迷著「庶ミンシュラン」では
一つ星を捧げさせていただいている。
ところが、このたび再訪してちょいと首を傾げた。
おでんの味にあまりコク味を感じなくなったのである。
カウンターの中のご夫婦は相変わらずだし、
ちょいと背伸びして見るおでん鍋にも変わりはない。
サッポロラガーの赤星の大瓶から
トクトクトクと琥珀の液体を手酌で
サッポロからのサービス品のグラスに注ぎ、
一気に喉に流し込んで「プッファ〜!」。
たまりませんな。
毎度のことで読者の方々には耳タコが
できているやもしれぬが、ここはご勘弁を。
最初に盛合わせてもらったのは
白竹輪・こんにゃく・里芋・うずら巻きの4品。
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赤星でやる盛合わせ photo by J.C.Okazawa
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竹輪麩(ちくわぶ)のように見えるのは白竹輪。
焼き竹輪よりも上等な白身魚のすり身でできている。
ちなみに「呑喜」には竹輪麩がない。
江戸っ子の象徴といわれる竹輪麩の不在は淋しいが
江戸っ子好みでありながら、
あれほど田舎っぽいおでん種もほかにない。
里芋からは往時の旨みが感じられなかった。
真っ黒に煮込まれて味のしみたうずら巻きに
燗酒がほしくなり、キンシ正宗を上燗でお願い。
カウンターには中年のカップルと
五十がらみのオジさんが一人。
第2ラウンドは白滝・焼き豆腐・ごぼ巻き。
白滝と豆腐は好物ながら、
この3点でよかったのは
ごぼうがシャキシャキのごぼ巻き。
箸休めに白菜漬けとべったら風の大根漬けを追加。
サラリーマンの二人連れと
学生風の二人連れがほぼ同時に入店してきた。
店内の様子がようやくおでん屋らしくなってきた。
ここでキンシ正宗をもう1本。
徳利が運ばれたついでに頼んだ締めの1品が
その身に子をパンパンに孕んだ子持ちやりいか。
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子持ちやりいか photo by J.C.Okazawa
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このやりいかとて姿はよいが
味のほうはどうもイマイチ。
熱が通り過ぎて多少、パサつくのだ。
おでん以外は茶めしと新香しか扱わぬ
おでんの専門店は実に潔い。
長い年月を通して東大生や先生方に
愛されてきた老舗がこのまま衰退の一途を
たどらぬよう、切に願うばかりである。
【本日の店舗紹介】
「呑喜」
東京都文京区向丘1-20-6
03-3811-4736
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