第694回
さまよって北千住(その2)
北千住は宿場通りの商店街にある
「大はし」のカウンターでS山クンと並んでいる。
「大はし」名物の肉とうふと牛にこみは
やはり牛肉だけの煮込みより
豆腐も入ったほうが箸先が変わって退屈しない。
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肉とうふには七色を振って
photo by J.C.Okazawa
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居酒屋の権威・太田和彦さんが提唱したものか、
森下「山利喜」、月島「岸田屋」(680回参照)と並び、
東京の三大煮込みとして名を馳せるこの店の煮込みだが
オススメはやはり肉とうふのほうだ。
焼肉さえ食べてりゃ文句を言わない肉好きにも
強くこちらを推奨しておく。
「大はし」のつまみのラインナップは色とりどり。
殊に刺身の取り揃えが充実している。
思案投げ首の末にヒモ付きの赤貝を選んだ。
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鮮度抜群にして色鮮やか
photo by J.C.Okazawa
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コリコリの食感にうまみもじゅうぶんである。
これが450円でこの値段ではわさびに文句は言えない。
それでも化調たっぷりのニセわさではなく
単純な粉わさなので、まだマシである。
もっとも、かきやはまぐりを
生で食べるときにわさびは使わないから
貝類に限ってはサビ抜きでもそれほど気にならない。
ビールがカラになり、お次に注文したのは
周りのオジさんたちに人気の梅割り焼酎である。
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口のほうから迎えにゆく
photo by J.C.Okazawa
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いかにも下町チック(北千住は下町ではないが)な
庶民的ドリンクはさしてうまいものではないけれど、
「大はし」に来ているという実感を
味あわせてくれることだけは確かだ。
細長い片面カウンターの中では男性が二人、
きびきびと立ち働いている。
親父さんと息子さんだろうか、
息の合っているところを見せている。
この動きは他店にもぜひ、見習ってほしい。
東京でも指折りの二遊間だと心底そう思う。
山本一力さんの小説に登場しそうだ。
山本さんといえば現在、日経の夕刊に連載中の
「おたふく」を楽しく読ませてもらっている。
最初のうちは名短編「節分かれ」の灘の清酒が
蔵前の札差の取り扱うお蔵米に
焼き直されただけかと早合点していたら
普請場で働く職人用の弁当に話が展開して
いよいよ興味が増してきた。
毎度のことにまた脱線。話を「大はし」に戻す。
梅割り焼酎をツイーッとやって
壁の品書きに再び目を戻した。
久しくパン食の朝めしを食べていないせいか、
急にオムレツが食べたくなった。
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形も整った器量よし
photo by J.C.Okazawa
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居酒屋にないことはないものの、
オムレツは比較的珍しいメニューではある。
中に鳥肉が忍ばせてあり、
親子丼ならぬ親子オムレツであった。
そろそろこのへんで河岸を変えよう。
S山クンと連れ立って、さて、もう一軒。
=つづく=
【本日の店舗紹介】
「大はし」
東京都足立区千住3-46
03-3881-6050
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