第735回
河豚とは半年のお別れ
池袋の先の小竹向原に佳店あり。
その名を「樽見」という。
地元で大人気の和食店は
このコラムでも一度取り上げたことがある
(第548回参照)。
3月も半ばに近く、
河豚のシーズンが終わりつつあるとき、
やっぱり「樽見」で河豚を
食べおさめようという成り行きになった。
土曜日の夕刻に集まった食いしん坊は計8名。
この町をホームタウンとするK木夫妻のはからいで
集結した顔ぶれは前回とほぼ一緒。
みな都立板橋、および豊島高校の出身者である。
この二校に北園高校を加えた三校は
世紀の愚行、都立高校学校群制度の区分けによると、
第42群を形成するメンバーだった。
悪法はほどなく滅びたが、
われわれこそいい面の皮。
進みたい高校を受験する機会を奪われ、
グループを受験して受かったあとは
抽選で三校のうちのどこかに割り振られたわけだ。
したがって、板橋と豊島の出身者は
世が世なら机を並べて勉学に
いそしんでいたかもしれない間柄なのである。
今さら愚痴っていても仕方がないので河豚。
サッポロの赤星ラガーで乾杯する。
突き出しは真鯛と縞あじのマリネ。
あとは余計なものは頼まず、一気に河豚である。
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厚めに引いた河豚刺し
photo by J.C.Okazawa
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二皿の大皿が運ばれると、
ため息やら歓声やら、人それぞれの反応を見せる。
それと同時に箸を持つ右手に力がこめられた。
紅葉おろしとポン酢でオーソドックスに
いただくのはもちろんけっこうながら
酢橘(すだち)を軽く搾りかけて
塩で味わうと実に鮮烈なおいしさが舌をヒットする。
むろんこのとき、ひれ酒を忘れることはない。
皮やアラ身も別皿でたっぷりと供されて
これがまたよいアクセントとなった。
続いては鍋だ。
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てっちりもボリューム満点
photo by J.C.Okazawa
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刺身も鍋もケチケチしないところが
この店のすばらしいところ。
ゆえにいつ訪れても満員御礼の大盛況だ。
2杯のひれ酒のあとは麦焼酎のいいちこロック。
そして雑炊で締めくくる。
一同満足の笑みを浮かべていると、
K木クンが妙な提案をしてきた。
ピザパイを食べようというのである。
それも近所のイタめし屋に移動するのではなく、
この「樽見」のピザパイを。
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見た目も味もけっこうでした
photo by J.C.Okazawa
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何でも厨房にイタリアンの出身者がいるとのことだ。
期待はしなかったが、
これが下手な場末イタリアン顔負けの本格派。
河豚屋でピッツァを食べることになろうとは
夢にも思わなかった春の宵。
【本日の店舗紹介】
「樽見」
東京都板橋区小茂根1-10-17
03-3959-0885
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