「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第1013回
「蛍」の光に誘われて(その1)

永井荷風ゆかりの新宿区・余丁町。
散歩の途中に謎の店「蛍」に出逢ったことは
ついこの間、当コラムでもふれた(第988回参照)。
さっそく乗り込もうと思いつつも結局、
初訪問まで1ヶ月半を要してしまった。

当夜の相方はニューヨーク時代から
かれこれ20年ほどのつき合いに及ぶ、
名うての金融マン、ふたチャンである。
この人は最近、夜な夜な玉の井や鳩の街などの
旧紅燈街に出没しており、世が世なら
例えば昭和33年より以前だったら
色街で身上をつぶしていたかもしれない御仁である。

「蛍」を発見したときは昼下がりだった。
灯りが点れば、どんな雰囲気に変わるものか興味はつきず、
胸躍らせながら曙橋から歩いて行った。
数日前に予約はちゃんと入れてある。

おお、やはり独特の怪しい気配が感じられるではないか。
この夜はデジカメ不携帯で写真がないのがくれぐれも残念。
これは近々、舞い戻らなきゃならないな。

カウンターのみ、しかも席数は8席ほどである。
口ひげを蓄えたマスターと同年輩のママの2人だけの切盛り。
ビールはサントリーのプレミアムモルツのロング缶だったが
よく見ると棚にはアサヒのスタイニーもあった。

予約時に料理はおまかせコースで2000円と聞いている。
この値段では軽いつまみ程度のものが
数品出て来るものと思いきや、そうではなかった。
当夜のコースは下記の通りであった。
 きゅうり塩漬
 かぼちゃの鳥そぼろあんかけ
 台湾風おやきの葱油餅(スンユーピン)
 丸ごとトマトのサラダ・きざみ玉ねぎのせ
 銀むつカマ西京焼き
 蟹・豆腐・春菊の中華風スープ仕立て
 牛もつ煮込み
 台湾風玉子春巻

これだけの品々が次々に供されて、お腹はパンパンだ。

葱油餅が出た頃に飲みものをキンミヤ焼酎にチェンジ。
フレッシュ・グレープフルーツジュースと
クラブソーダで割って飲んだ。
ふたチャンと談笑していると、
マスターが遠慮がちに声を掛けてきた。
“オカザワ”の名前で電話予約が入ったときから
それがJ.C.オカザワだと、確信していたそうだ。
わが悪著「ドクロ本」を取り出しながらそうおっしゃる。
いつでもどこでも本を買ってくれた方に出会うのはうれしい。

それではと、その3週間後に
「ドクロ本」ゆかりの人間を伴って再訪した。
今度はしっかりデジカメを携えて――。

夜の「蛍」の玄関
photo by J.C.Okazawa


夜の「蛍」の裏手
photo by J.C.Okazawa

建物からはみ出すようにして造作された「蛍」は
オーナー夫婦が移転して来る前は
「ハミダシ」という名の飲み屋だったという。

            =つづく=

 
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2010年5月24日(月)

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