「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第1128回
マイ・ホームタウン・アゲイン(その3)

生家から歩いて10分の「司食堂」をあとにして
善光寺前の坂道を下り、長野市随一の繁華街・権堂に向かう。
幼稚園児の頃の夕食後、
「お父ちゃん、どこへ行ったの?」――母親に訊ねると、
「権堂に飲みに行っちゃったのよ」――決まってこの返事。
時はめぐり、半世紀を経て
あのときの園児がそこで飲むようになった。

権堂のアーケードには「イトーヨーカ堂」がある。
地下の鮮魚売り場を見ておこうと思って入店。
海ナシ長野のことだからサカナはみな他県産だろう。
陳列されているサカナやエビはやはり新潟産ばかり。
ただ、関東のデパートやスーパーでは珍しい日本海モノが
揃っているのは目に新鮮だった。

さて、さて、当夜の2軒目だ。
陽の高いうちに目星をつけておいたのは「長兵衛」なる居酒屋。
焼き鳥と焼きトンの二本立てで勝負する店だ。
帰京後に判明したことだが
店主は埼玉県・某市の焼き鳥屋で腕を磨いた人物だという。
お腹はかなりくちくなっており、
注文は絞り込まなければならない。
焼き台が視界に入っておらず、
壁の品書きを仰ぐふりをしながら隣客の皿を盗み見る。
串のサイズはわりかし小ぶりであった。
接客の女性がオッツケがましくないのも大助かりである。

鳥豚二刀流の店に来たら、迷わず豚主体でいく。
主体どころか、豚オンリーもけして珍しくない。
第1ラウンドはコメカミ・カシラ・ナンコツを塩で。
焼きトンの場合、基本的に頭から心臓までの、
いわゆる上半身は塩焼きが旨い。
胃・腸・肝臓などの下半身に移るにつれて
タレとの相性がよくなってくる。
いずれの部位も噛み締め感が快適。

東京の墨田・葛飾には及ばぬものの、
中野・杉並のレベルは超えている。
箸休めの千切りキャベツをつまみ、
第2ラウンドはコブクロ・シロ・レバーをタレで。
タレの甘辛の塩梅もよろしく、
長野でこのクラスの焼きトンに出会えるとは思わなかった。

翌朝はホテルで朝食を済ませ、小諸を目指す。
懐古園を訪ねるためである。
子どもの頃、園内の動物園に居た満州豚が大好きだった。
この豚については驚きの奇遇もあったっけ(第785回参照)。
小諸駅に到着すると改札周りがヤケに煙い。
驚いたことに駅員のオッサンみたいな人が
炭火で大量の秋刀魚を焼いてやんの。
おい、おい、駅の改札で秋刀魚を焼くなよ!
昔、「桃屋」の焼肉のたれのCMで
「ケチケチ焼くのはしみったれ、
 ボーボー焼くのはバカったれ」というのがあったが
まさにオッサンはバカったれ。
思い出の場所、懐古園を懐古するために訪れたのに
秋刀魚の煙りに出迎えられるとは思わなかった。

改札を出ると、待合スペースでも
日本全国の物品を並べて即売会。
この日は駅前商店街にも食べもの屋台が出ており、
何かのイベントが催されているようだった。
人混みを尻目に懐古園の門をくぐる。
展望台より何よりもさっそく動物園である。
ところが目当ての満州豚が見当たらないのだ。
秋刀魚の煙りに見舞われたときから
イヤな予感がしていたが案の定だ。
強烈な肩透かしに哀れJ.C.、
もんどり打って黒房下に転げ落ちましたとサ。

           =おわり=


【本日の店舗紹介】
「長兵衛」
 長野県長野市大字鶴賀権堂町2386
 026-235-6745


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2010年11月1日(月)

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