四、健啖こそ長寿の秘訣

佐藤春夫先生ご夫妻と檀一雄さんをはじめてご招待した当夜のメニューは、次の通りである。

一、冷盆 おるどおぶる
二、炸子鶏 とりのからあげ
三、冬瓜盅 とうがんむし
四、野鶏巻 ぶたにくあげもの
五、炸蝦仁 えびいため
六、叉焼 にくのまるやき
七、合桃炒珍肝 くるみととりのもつ
八、白菜湯 はくさいのすうぷ
九、姜葱牛肉 ぎゅうにくいため
十、蒸魚 むしざかな
十一、湯麺 しるそば
十二、炒飯 ちゃあはん
十三、腐竹白果湯 ぎんなんのすうぷ
十四、生果 くだもの

うちの女房に、千葉県の田舎から出て来たお手伝いさんがついて、料理をつくり、食べる側は、私も入れてたったの七人、それでつぎからつぎへと出てくる料理を十四皿もペロリと平らげてしまったのである。
私も大食いの方だが、佐藤春夫先生の健啖ぶりにはまったく舌をまいた。大食いといえば、健康で、長生きの人は、たいてい、大食いの人が多い。たとえば、蒋介石の片腕となって働いた張群氏は一八八九年生まれだから、今年で九十四歳になるが、現在も台湾で総統府資政として、元気でいろんな会合に顔を出している。数年前、私は台北市の日本料理屋で、張将軍を招待したことがあるが、昼食時にもかかわらず、出てくる皿、出てくる皿、片っぱしから平らげていったのにはびっくり仰天した。
また台湾の財界で有名な陳逢源さんとか、元台北市長の呉三連さんといった台湾の名士たちは、八十歳過ぎても、毎晩、宴会に顔を出し、はじめからおしまいまで、人の倍くらい食べてケロリとしている。東京の私の家にお見えになる人のうちでも、谷川徹三先生、脇村義太郎先生、それに、マンズワイン社長の茂木七左衛門さんの健啖ぶりは、私にそれらの方々の年を忘れさせたくらいである。面白いことに、年を忘れさせるのは、胃袋の大きさだけでなくて、頭の働きについてもそうである。どうやら胃袋の働きの活発な人は、頭の細胞の働きも若いときとはあまり変わらないようである。
だから、私は「腹八分」という健康法に対しては、疑問を抱いている。身動きができないほど食べるのもどうかと思うが、健康のために、食べるのを控えるのははたして正しいのだろうか。むしろ、食欲が減退しないように、体調をととのえたり、食事に工夫を加える方がよいのではなかろうか。

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