しかし、年をとったら、減食をした方がよい、という考え方にはあまり賛成できない。
減食しなくとも、食は自然に細くなっていく。
したがって早回りして減食するよりは、身体の調子に合った食事を工夫することにこしたことはないのである。
いま、ふりかえって考えてみると、佐藤春夫先生のご夫妻をご馳走したときのメニューは、ほとんどそうした年齢を考慮に入れていない。
私たち自身がまだ三十歳になったばかりで、年をとるということがどういうことか、気にもしていなかったからである。
料理の中身もごくありふれたもので、ちょっと珍しいものといえば、野鶏巻に腐竹白果湯くらいなものであろうか。
野鶏巻は、正式には、大良野鶏巻といって、広東人の食べ物である。
野鶏というと、家鶏ではなくて野育ちの鶏ということになり、転じて上海でヤーチーといえば、ストリート・ガールのことになる。
しかし、ここではその意味がまったくないばかりでなく、鶏の料理ですらない。
まず材料は、豚のもも肉の薄切りと、豚の肩の脂身の薄切り、それにロースハム。
つぎに、卵の黄身と小麦粉をまぜあわせたものを糊にして、一番外側を脂身でこの三つを巻いて楊枝でとめておく。
それを蒸籠の中で二十分くらい蒸すと、うまくかたまるので、それをしばらく冷蔵庫に入れておく。
そのあと二センチくらいに輪切りにして片栗粉をまぶし、油できつね色になるまで揚げて、熱いうちに食べる。
脂身はしつこくていやと思うかもしれないが、いっぺん蒸しているので、油がおちて案外、あっさりした味になっているのである。
もう一つの腐竹白果湯は、最後に出るデザートで、腐竹とは湯葉、白果とは銀杏のことであるから、銀杏と湯葉の入った甘いスープのことである。
中国には何十種類という湯葉があるが、あの当時は東京で手に入りにくかったので、京湯葉を二袋買ってきた。
銀杏は生の銀杏の方が香りもあるし、おいしいが、なければ、罐詰の銀杏でもかまわない。
まず水の中に銀杏を入れて二十分くらい煮てから、砂糖を入れてもう十分くらい煮る。
それに湯葉を入れて、十分くらい煮たら、火をとめる。
その中に卵をといてパッと入れたら、素早くかきまぜる。
それで、もうできあがりで、卵を入れてから火を使わないようにしないと、卵が煮えすぎてまずくなってしまう。
たったこれだけのことだけれども、火の加減とか、蒸すプロセスが入っているということが、料理をおいしくするかどうかの分かれ目になる。
古いメニューを見ていると、女房の手伝いをしたり、買い出しに行ったときのことが思い出されるのである。

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